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憲法九条 仏さまの願いです
子:
今度の総選挙で政権交代したね。今までの政治とまるで変わったみたいだね。
母:
4年前の選挙では自民党が圧倒的な議席を取って、今度は逆に民主党がすごい議席を……、こんなに簡単に国民の気持ちが変わるって恐ろしい気もするわね。
祖母:
今度の総選挙では憲法のことは何にも言わなかったみたいだけど……、もう憲法を変えろって話は無くなったのかねえ。
父:
そう、確かに憲法の話はなかったけど……、落ち着いたらまた出てくるんじやないかな。民主党も憲法を変えたいって思ってるからね。
押しつけられた憲法?
子:
だって、今の憲法はアメリカに押しつけられたものだろう。だから変えるんだよね。
父:
日本は戦争に負けて連合国に占領されていてGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が圧倒的な力を持っていた時代だから、どういう形にしろその意向が反映されたことは間違いないだろうねぇ。
祖母:
でもねぇ、その時はみんな喜んだのよ。もう、戦争をしなくっていいんだって。死んだおじいちゃんは、その頃の新聞を切り抜き帳に貼ってたもの。
子:
へえぇ。おじいちゃんも喜んでたの?
祖母:
そうよ、おじいちゃんも戦争に行ってね、仲間が大勢死んで自分が生き残ったってずいぶん辛い思いをしてたわ。兄弟も死んで、自分だけが生き残ったって。でも、兵隊に行ってた頃のことはほとんど話さなかったねえ。ロにはできないことがあったんだろうねぇ。苦しかったと思うよ。
子:
見せてよ、そのノート。
(祖母、紙箱を持って来る)
子:
あ、これだね。「主権在民・戦争放棄」ってトップ記事だ! 「天皇は国家の象徴」「国民至高の総意に基く」って。
祖母:
憲法はこのようになります、って明らかにされた日の新聞ね。
子:
なんか、ボロボロのちっちやな本もあるよ。「新しい憲法 明るい生活」……。これ、何?
祖母:
あ―、こんなのも残してたんだねえ。これはねえ、政府がみんなの家に配ったんだわ。なつかしいわねぇ。
父:
初めて見るなあ。憲法の説明書みたいだよ。後ろには憲法の全条文が載せてあるよ。
母:
見せて、見せて。ホントだ! 私、覚えてたのよ憲法前文を、高校生の頃。
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。
子:
僕に見せてよ。なんか難しい字だね、、読めない字もあるよ。
祖母:
そうよね、昔の字だから憲一には読めないでしょうね。
父:
貸してごらん。お父さんなら少しは読めるから。
《新憲法が私たちに与えてくれた最も大きな贈りものは民主主義である。民主主義政治ということを一口に説明すれば「国民による、国民のための、国民の政治」ということである》
子:
じゃ、その前の憲法は民主主義じゃなかったんだ。
母:
学校で習ったでしょ、大日本帝国憲法を。第1条に「大日本帝国は万世一系の天皇これを統治す」って。
父:
《旧憲法では国の政治の最高の権限は天皇がお持ちになっていた。そのため一部の軍人や重臣などが天皇の名をかりて、わがまま勝手にふるまい、悪い政治を行うすきが多かった》
って率直に書いてるね。最後には
《私たちは新憲法の実施を迎え、新日本の誕生を心から祝うとともに、新憲法をつらぬいている民主政治と、国際平和の輝かしい精神を守りぬくために全力をつくすことを誓おうではないか》
って高らかに宣言してる。
子:
じゃあ、みんな喜んだんだ。
祖母:
そうよ。日本人だけで310万人もの人が戦争で死んだんだもの!
押しつけられたか、押しつけられたんじゃないとか、いろいろ言うけど中身が問題、中身よ。みんなが喜んだ憲法だもの。おばあちゃんも若い頃は、軍国少女だったのよ。目本国勝て、日本国勝て、といつも思っていたし、「南京陥落」とラジオから流れてくると「バンザーイ」と喜んだものよ。でもそれは、人の命の奪い合いの上に立っていたのよね。
おばあちゃんも、憲法九条が盛り込まれてうれしかったわ。
母:
そう、前文に
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従(れいじゅう)、圧迫と偏狭(へんきょう)を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
って書いてあるわ。
祖母:
さっきのご法事でお坊さんが「仏さまは幸せに生きなさい、誰ひとり不幸であってはならないと願ってくださってる」って話しされたわ。
父:
仏さまは私たちに「地獄・餓鬼・畜生のない世界を創ろうじゃないか。あなたもその願いを共に生きようではないか」と願ってくれてるんだよ。そんなことは理想だ、できっこないよ、って思っている間はできないんだ。一人ひとりが「そうなんだ!」ってうなづいて決意しなければできないんだ。
母:
お釈迦さまはね「全世界の人々に限りない優しい心を起こさなければならない」っておっしゃっておられるわ。
子:
じゃ、憲法前文って仏さまの心だ!
憲法「9条」って?
子 憲法9条が問題になってるよね。何て書いてあるの?
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇(いかく)又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
父 「戦力を保持しない」を問題にする政治家たちがいるんだよね。
祖母 軍隊を持ったら戦前のようにまた戦争をする国になっちゃうじやない。
子 でも、軍隊を持たないと目本の安全が守れないじやない。
母 憲法前文には
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
って書いてるわ。かっこいいじやない。
子 かっこいい、だけじゃ現実的じゃないよ。
侵略されたら、どうするの?
子:
9条を守ろう! つて言ってる人たちがいるのは知ってるけど、侵略されたら困るよね。攻められたら国を守る軍隊がなけりゃどうするんだよ。
父:
再軍備をしようと思う勢力が「戸締(とじま)り論」つて言ってね、泥棒に入られないために家に鍵を付けるのと一緒で、外国から侵略されないために軍隊を持たなければならないって主張してるんだけど、さあどうかなぁ。
祖母:
隣の国がテポドンとか核実験をしてるってテレビで聞かされるとやっぱり不安にかるわね。でも、あの国は周りから非難されてるのになぜあんなことをするのでしょうねえ。仲良くすればいいのにねえ。
父:
う―ん、きっとあの国は自国がいつ攻められるかと不安でいっぱいなんじやないかな。
母:
「あの国」っていうけど「あの国の政権」が不安を感じてるのだと思うわ。
子 :
どういうこと?
母:
大量破壊兵器を持っているから危険だ、っていう理由でアメリカはイラクを攻撃したわ。実際はそんなもの無かったんだけど、それを理由に戦争を始めたの。それも自衛のためって言って軍隊を送りこんでフセイン大統領を捕まえて死刑にしてしまったわ。だから金正日(キムジョンイル)総書記は自分もそんな目にあうんじゃないかって恐れてるんじゃないかな、って思うの。それでね、攻めてきたらテポドンを飛ばすぞ! って叫んでるんだわ。攻めないでくれ! って。
子:
そうか、それが「戸締り論」なんだね。でも、周りの国の人は不安に思うのは事実だよね。孤立しちゃうし。それにあの国の人たちは食糧も十分無いって言われてるじゃない。テポドンを作るお金で食糧を輸入したらいいのに。おかしいよね。
父:
そうだね。軍隊は「国を守るため」っていうけど実は国民一人ひとりの命や暮らしを守るんじゃなくて、その国の権力を持ってる人たちを守るためにあるってことが見えてくるね。外から見るとそのことが判るんだけれど、その中に暮らす人々は日々「お国のため」って教育されてるから本当のことが見えてこないんだ。
かつての日本もそうだったし日本に住んでいて、実は日本の政権が何をしたがっているのか、そのことが外国の人々からどのように見えるかってことを考えないように教育されてるんだ。このことが一番怖いことだなあ。
母:
そういえばご近所の大きな大を飼ってるお家の人、散歩させるのにもう少し気をつかって欲しいと思うことがあるの。あの大きな犬が私に近寄ってきて、私か怖がってるのに「うちの子はおとなしいですから、安心してください」って言うのよ。
祖母:
軍隊を持つって、そういうことよ。日本が堂々と軍隊を持ったらかつて日本の軍隊に散々ひどい目にあった周りの国の人たちはきっと恐怖を感じるわ。
子:
ねえ、目本の軍隊はひどいことをしたの?
母:
教科書にはあんまり書いてないからきちんと勉強しないとね。
誰が9条を変えたいの?
母:
新聞に見過ごすようなちっちゃな記事がでてたの。それはね
■武器禁輸「見直しを」日本経団連は14日、原則すべての武器の輸出を禁じている「武器輸出3原則」の見直しを求める提言を発表した。武器は国際共同開発が主流になっているとして、3原則の見直しにより、日本企業による他国との共同開発を可能にすべきだと主張している。
アッ、これなんだ! って感じたのよ。9条を変えたがっているのは、このグループなんだ! 自動車が売れなくなったから、武器で儲けようって考えてるのよね。武器は使わなければ次が売れないんだから戦争しなけりゃならないのよ。こういう人たちは自分が儲けることなら何でもいいのよね。武器は人を殺す道具よ! 人を殺す道具を作って自分たちはその陰でいっぱい儲けるのよ!
父:
そういえば、お釈迦さまは
「国王は武力で隣の国も、その隣の国も我がものにして、陸続きの国々を全て征服したとしても満足せず、海を渡ってはるか遠い国々をも侵略するであろう」と、おっしゃってるよ。このお言葉を聞くと全く現代を表しているようだね。「海を渡って」って。
祖母:
戦争は人を殺すことなのよ。人を殺すなんてとてもできない。でも戦争になると人を殺さなければならないのよ。だから、どんなに正義を振りかざしても、戦争を始める理由にしてはいけないと思うの。
父:
戦争に行けば、軍隊に入れば人は変わるって、年配の方が言ってたよ。普通じゃなくなるって。
母:
「人を殺すなどしたくはない、と思っていても場合によれば百人も千人も殺すことだってある」と親鸞という方はておっしやったわ。
人間って時と場合、置かれた環境によれば何をしでかすか、分からないものをもっているのよね。だから戦争につながるものは、どんな小さなことでも絶対に許してはいけないのよ。
どうすれば平和は守れるの?
祖母:
もう、戦争はいやよ。絶対いや。
母:
戦争の手段、軍隊を持たなければ戦争はできないわ。
子:
そうだね、隣の国が軍備を大きくしたら気持ちよくないよね。なんだか怖いよね。
こっちも軍隊を持たなきやって、やっぱり思っちゃうよ。
母:
常日頃から仲良くしてたら相手の気持ちもわかるんじゃない。そしたら戦争なんかできないわ。
父:
仲良くするのは政府と政府が仲良くしなければならないんだけど、その国のひとり一人と仲良くできる、そう、理解しあえることが大切だとおもうね。
母:
私はね広い意味で国際貢献するべきだと思うわ。困ってる地域の人々が生活できるように。
父:
単にお金で援助するんじゃなくてね。今でも井戸を掘ったり、用水路をその地の人々と一緒に造ってる民間のグループがあるよね。そんな風に。
母:
さっき仏さまの願いって言ったけど、人間の一番の苦しみは飢えだと思うの。世界中の人々が飢え死にしないような国際貢献っていうか、協力がでさればきっと世界は変わるわ。
祖母:
そうよね。お釈迦さまが世界中の人に優しくしなければならない、っておっしやったじゃない。他人から支配されずに、みんなが飢えることのない世界なら、たとえ政府が戦争しよう! って言っても賛成する人はいなくなる。きっとそうよ。みんなが幸せなら誰も武器なんか持とうと思わない。きっと、そうよ。
父:
大先輩が言ってたことだけど「平和は平和のときにしか、語れない」って。いったん戦争になれば「平和」っていうだけで非国民って言われてね、言った人だけじゃなくて家族も村八分にあっちゃうからね。今だから言えることかもしれないよ。
「平和を守ろう」「9条を守ろう」って。
祖母:
今日は、久しぶりに家族で話したわね。
子:
おばあちゃん、いろいろ話してくれてありがとう。これからは僕たち若者がしっかりして、戦争をしない日本、いや、世界をつくるために努力をしていかないとね。
*編集者により憲法条文の旧漢字体は新漢字体に、また読み仮名をつけました(旧仮名づかいはそのまま)。
口絵 竹林地俊人