「科学の原理と人間の原理」⑤

大きすぎて実験ができない

原子力が大きすぎることて実験が出来なくなってきた。実験ができないということはすごく大きい。今の科学は実験ができない領域に入っています。

美浜原発事故ではECCS(緊急炉心停止冷却装置)が作動しました。あれはECCSの実験をやったようなものです。今回はうまく働いたが、あれで炉に損傷を与えずに本当に成功したのかどうかわかりません。世界的にECCSが働いたのは十数例です。そのうち一回はうまく働かずスリーマイル島の事故になりました。チェルノブイリは最初からECCSが入る余地のない事故でした。

ECCSが本当に働くかどうか実例は少なく、実験例はあるかというと実験のやりようがありません。事故が起こって実験をやっているようなものです。スリーマイル原発事故はデータが残っていたので、原子炉内の実際をコンピューターで再現しようとしたがなかなか出来ない。大型コンピューターで三ヵ月かかり、一応の答えが出て炉心は溶けていないという結論だった。ところが何年もかかって蓋をかけてみたら70%が溶けていた。

人間の知恵、科学技術なんてその程度のものです。それが万能であるかの如くに思っているところに、人間のおごり、たかぶりがあると思います。

これから人間はまだ先に行くと思う。けれど先に行くのは半分の面だけです。火を着けるという方向ではいくらでも先に行くけれど、それが人間や社会にどういう影響を与えるか、どういう傷を与えるかについてはそれを有効に評価するとか守る手段が何にもない。そちらの方には知恵が働かないままに進んで行く。

科学技術のもたらすものは、地球規模にまで及んでいるのに、それを扱う人間が全然そのことを自覚していない。そこのところが何とも情けないし恐ろしい。

 

放射能の時間の長さ

放射能の持続する時間というのは、何万年何十万年何百万年です。一番毒性が強くやっかいなもので問題になるのはネプツニウム237です。これはウランからできるもので原子炉の中で出来てしまう。

ペレット一個燃やすと一軒の家の一年分の電気を作る熱を出します。これが原子力の魅力と言われる点ですが、ペレット一個の死の灰は五万人の致死量に当ります。一軒分の一年間の電気のために大変恐ろしいことをやっている。

この半減期が210万年です。この毒性が非常に強く、百万年位経ってようやく青酸カリと同じ位になる。青酸カリという地上的な毒になるのに百万年かかるのが核の毒です。

人間の一生の長さからすると限りなく長い。無限に長いというような長さを待たなくては地上世界の物にならないような毒なのです。